Aïdée Bernard & 柳井 嗣雄 二人展の記録

 

期  間 2021年3月4日~21日

         作者コメント ・柳井 嗣雄
  失われた身体 亡者の着物
昨年お盆の時期に、秋田県の西馬音内(にしもない)を訪ねた。西馬音内盆踊りは日本三大盆踊りの一つだが、残念ながらコロナウイルス 感染症のため中止になってしまった。
この盆踊りは別名「亡者踊り」とも呼ばれていて、特に興味深いのは黒子のような黒頭巾を被って踊る場面。
昔は時間制限もなく踊り続けて踊り手はトランス状態になったという。この黒頭巾(彦佐頭巾)を糸口にして今回の「亡者の着物」が生まれた。
もともと、舞踏の創始者、土方巽の精霊に捧げるつもりであったが、新コロナウイルスの蔓延により世界中で死者数が増加する中、着物を作り続けていくうちに亡くなった人々の死を悼むというふうに私の意識が変化して来た。
失われた身体と、それが関わった環境(社会)との接点に在るものとしてこの着物を制作した。さまざまな記憶や情念がその内と外の境界で見えて来るように願いながら。
コロナ時代と「亡者踊り」、生者と亡者、十字架に掛けられた黒い衣服が、稲妻のように一本の線に繋がった。
人は遅かれ早かれ死と向かい合わなければいけない。我々はみんな生と死のあわいで生活しているのだ。
様々な環境の変化や厳しい現実の中を生き抜いてきた人類の力を信じることにしよう。

 

         作者コメント ・Aïdée Bernard
  野生の紙 - 水の言葉
越前で紙の神様、川上御前が祀られている大瀧神社の1300周年を記念して、「今立アートフィールド」というイベントがあり、私は2019年に招待されました。
越前の奥に位置する大滝は、紙漉き職人の里です。
製紙に不可欠な水は、私のテーマでした。私は越前の人々に紙漉きの技を伝える「紙祖神」川上御前の伝説にインスピレーションを受けました。
言い伝えによると、この女神は水を介して紙漉きの秘密を伝える存在であり、また生命の根源でもあります。
水は力強さと繊細さを併せ持っています。水は地球上に生命を誕生させ、地上の最初の住人である植物を誕生させました。
私は紙を作るために地元の植物を採取しました。米、すすき、笹、葛、お茶などの野生のハーブに出会いました。それらは私たちの惑星の大気を呼吸可能にした植物たちであり、地球の起源、古代とのつながりを実感させてくれる私にとっての鏡なのです。
このインスタレーション「野生の紙-水の言葉」で私が提案する水へのオマ ージュは、官能的で繊細なだけでなく、生命的で強靭な要素をも呼び起こします。
水は女性的であり、新たな生命を生み出すことができる一方で、すべてを食い尽くす荒々しい女神のように破壊的で、私たちを完全に打ちのめすこともあります。
私の願いは、理性と感情が対立するのではなく、共同して人生を豊かなものにしていく創造の世界を生み出すこと、私たちの感覚と感性をもっと信頼することです。
感覚器官を通して真に自分自身であるために私は創造します。